* 7 *








いつもより早い朝が来る。
白いまぶしさに、あたしは起こされた。

目の焦点が合うより先に、空の薄い青と陽の金色が、目の中に差し込んでくる。
明るい。
まぶしい。
朝、だ。
はー、屋根の無い下で起きるって、こんな感じなんだなぁー・・・。


えっと、ランダは・・・・・・・・・・・


焚き火の反対側に、あたしに背を向けたまま寝っ転がって、腕を枕にして眠っていた。
あたしの涙、見ないようにしてくれてたのかな。


・・・・・・・・・かぁぁぁぁっ。


ハズカシイ。あんなに泣きじゃくってしまうなんて。子供みたいに。
いや・・・・・・、あたし、子供なんだっけ。もう、認めるしかなさそう・・・・・・・。


そういえば、懐かしい夢を見たなぁ。ミルサートさん。何年たっても、彼女の記憶が色褪せることはない。
もちろん、そのときに芽生えたあたしの熱も。


「大きくなったら、かぁ・・・・・・・」


十二歳になったら、ミルサートさんと同じようになれると思ったのに。
ううん。今のあたし、ただひたすら、ミルサートさんに追いつくことしか頭にない。
それだけ、七歳だったあの時に、あたしの中に刻まれた憧れは強かったんだよ。

ミルサートさんが初めて旅立った時が、十二歳の誕生日だったって聞いたから。
・・・・・・・・昨日、やっと十二になれて・・・・・・・・。
今すぐにでも旅に出ないと、追いつけなくなる気がして、焦って焦って仕方なかった。

どうすればいいんだろう。
気持ちばかり、どこまでも先走りしてるのに。

うつむく。
目に映る自分の、崩れたポニーテールのしっぽは、短くて不揃いだった。
仕方なくブーツを履き直した両足は、まだ靴ずれがひどく痛む。


どこへ行こうかな。今日は。こんなに早くつまづいてしまって、もう進むことができないなんて。
来た道を戻るなんて絶対したくなかった。あたしは、まだ歩いたことのない道を歩きたくて、旅に出たのに。


なかなか立ち上がれずにいるうちに、ランダが目を覚ましてしまった。


あたしは、なんとなく、ランダに話してみたりした。いろいろ。
旅に出た理由、ミルサートさんのこと。
・・・・・・・・・・・なんでこいつに話してるんだろう。
話したかったわけじゃない。単に、自分の気持ちの整理がしたかっただけ。
ランダは、黙ってそこにいた。どこへ行こうとするでもなく、相づちも、否定も肯定も、質問も何も言わないで、そこにいた。
ただ、聞いていた。


空に座る太陽の位置が、少し高くなって、あたしの話すこともそろそろ尽きてきた。
また、立ち上がれないまま、これからどうしようかなっていう、朝起きたときと同じ状況に戻る。
うーん、どうしようかな・・・・・・・・・・・・・。


不意に、ランダが立ち上がった。
その一瞬に、彼の、にやっとした意味ありげな笑った表情が、あたしの目に映った。
そして、ランダは急に、走り出した。


「ついてこいよ」って。


風のように走り出した。








あたしは追いかけた。

どこに連れていくつもりなのか、何がしたいのかわからなかったけど。
「待って」なんて絶対に言いたくなかった。

靴ずれのかかとが、ずきずき、ずきずき、悲鳴を上げてたけど。
止まりたくない。
自分に負けたくない。

途中で道を外れ、森に入った。
ランダ、最初はゆっくりだったのに、だんだん速度を上げているみたい。
ばさばさと、あたしの背中で揺れるマントが、鉛のように重く感じる。

歯を食いしばる。
これくらい・・・・・・。
これくらい・・・・・・!

ひたすら、前を走る男の子の背中に追いつこうと、走った。
心臓が破裂しそう。
ぜっ、ぜっ、ぜっ。
自分の息の音で、頭が痛くなる。

道の無い、森。
枝が行く手を邪魔する。
でっぱった根が、あたしを妨げる。
つまづいて、何度かこけそうになった。
服やマントが、引っかかって少し破れた。


ランダがどんどん遠ざかる。
たまに振り返り、あたしと目が合う。
そしてまた、速度をあげる。

あきらめない。
あきらめるもんか!


ミルサートさん。
あたし、今はまだ、子供かもしれない。
もしかしたら、すごく臆病で、弱いのかもしれない。何もできないのかもしれない。
でも、でも・・・・・・・・・。

あたしには、夢があるの。
世界を歩きたい。
なりたい自分になりたいの!

あたしに何の力もなくっても、それでも。
あきらめないことくらいはできる!

今ここで走るのをやめてしまったら、永遠に、世界を旅する冒険なんかできない気がする。
永遠に、ミルサートさんには追いつけない。


いやだ。
そんな自分、死んでもいやだ!
止まりたくない。
止まりたくない。
止まりたくない!



「つっ!!!」



足がもつれて、顔から倒れそうになった。
自分でも信じられない反射神経で、体をねじって地面に手をついて、すぐに前に足を踏み出した。

今転んでるひまなんかないんだ。
やばい、ランダ見失っちゃう!
立ち上がった途端に、酸欠で目がかすんで、頭がぐらっとした。

それでも、走る。やみくもに、がむしゃらに。
それが、今のあたしにできることだから。

止まりたく、ない・・・・・・!










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