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とほほ・・・。
あれほど順調だったあたしの旅はいずこへ行ったの。


「んあーぁ! 髪がからまってるぅ〜〜〜!」


朝、一生懸命髪をとかして、濡らしてみたり温めてみたり。
お母さんですら、めっっっっっったにつけない椿油なんか塗りこんでさー。
完璧に美しい、まっすぐなポニーテールにしたのに、どおしてこうなるのぉぉ?
いっつも編み込み三つ編みにしてたから、なんだか変なウェーブがついちゃってるんだよねー。あたしの髪。
うねうねしてて背中で広がってるポニーテールなんて、カッコ悪いことこのうえない。

曇った古い銀色の鏡の中で、困った顔のあたしが睨んでいる。
持ってこれる鏡がこれしかなかったんだ。どうしよう。

あ、そうだ。
道からちょっと外れた所に、小川があったはず。
冷たい水で、髪を整えよう。





あったあった。川。


髪を濡らして、櫛でとかして・・・・・・っと。






ざざざざっ!


「なぬっ!?」


「あー、いたいた」





向こう岸の茂みから、少年が現れた。
ぼさぼさと、いろんな方向に髪が跳ねている、短い黒髪、鳶色のベスト、ひざ上丈の短パン、小生意気そうな笑みの口と、釣り目。
・・・さっきあたしを大笑いしていたガキ大将君だ。


「なんか用?」

「おう、お前さー、オレらと遊ばねー?」

「はぁぁ?」

「今さ、この奥の森の中で吹き矢ゲームやってるんだ。お前ヒマそうだしさ、なんだったら混ぜてやってもいいぜ!」

「あのねぇ、このカッコを、どう見たらヒマそうに見えるのよ」

「頭のてっぺんからつま先までヒマそう」

「頭のてっぺんからつま先まで! どっからどー見てもあたしは、旅する冒険者よ!!! 寄り道して子供と遊ぶなんて、あたしのすることじゃないのよっ!」

「あ、なー、待てよー!」


彼は、ひょいひょいっと器用に岩を渡り、川を越えてくる。
追いかけてくる気ぃ?


「しつこーーい!」


振り切ろうと、あたしは道に戻ってダッシュ!
けどあたし、足、遅いんだわ。かなしーことに。


「あのなー、オレはすごいんだぜー! 吹き矢めちゃくちゃうまいぜ?」

「あんたねぇ・・・先回りしてまで自慢に来なくても・・・・・・」



やたらすばしっこいコイツを相手にして、あたしが走ることをあきらめるまでに、そう時間はたたなかった。
・・・・・・・のは、かなり、哀しい。











「なぁ、どーしてお前、旅なんかしてんだ?」


無視して歩いてても、不躾な声が、延々と後ろから聞こえてくる。
川からとっくに遠ざかっているのに、いっこうにあきらめようとしない。

もー、おとなしく仲間と吹き矢しに戻りなさいよー。
なんでついてくるのかなーこいつ。
単に好奇心? 意地悪? 自慢?


「来れば面白いのにさぁ。川で魚とったり。あ、そうだ。隠れ家見せびらかしてやるからさー!」


しかも、口調がなれなれしくてかなりヤダ。






そうして歩くうちに、いつのまにか、目の前の水色の空が、端のほうから淡い山吹色に変わりはじめているのが見えた。
もうすぐ日が暮れるわね。やれやれ。ちょっと休憩。






道端の端のほうに座り、地図を広げる。
家の物置で見つけたふっるーいもんだけど、十分旅には役立つ。
何時間くらい歩き続けたのかよくわからないけど、もうパル村(さっきの村の名前)からはだいぶ離れたみたい。

えっと、えー、でも、ここから一番近い街でも、今日歩いた距離の何倍も何倍もありそう!
馬車でしか行ったことなかったしなーー、こんなに遠いとは。どーりでここの一本道、歩いても歩いても景色が変わらないわけだ。


仕方ない。どこで野宿しようかな。今夜は野宿初体験!
火、起こさなきゃいけないから、木の枝拾ってこないと。


あれ? でも、ここ、道の真ん中だし、まきになりそうなものが全然ないや・・・・・・。
岩でもあれば、それにもたれかかって休みたいんだけど・・・。この様子じゃ、平らな地面の上にそのまま寝転がって寝ることになりそう。
キビシイなぁ。






「火、起こすの手伝おっか」


うわ。こいつ、まだついてきてたの?


「オレ、火起こすの得意なんだぜー?」

「いらない! 本当にしつこいわね、いい加減子供は帰りなさいよ!」

「平気平気、うちの親、放任主義だから。一日ぐらい帰んなくても心配しないって」

「あんた泊まって行く気ーーーーーーーー?!」

「そ♪」

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁ! 子供のクセに、このあたしの寝込みを襲う気なのね?! きゃああぁぁ痴漢ーーーっ!」

「アホか。お前みたいなブスで色気の無いヤツ、どんな男だって頼まれたってごめんだね。けっ」

「きいいいっ! 生意気ー! 子供のクセにーーー!!!」

「あのなぁ、さっきから子供子供って。オレには、ランダ様っつー、超かっこいーい名前があるんだぜ。で、そういうお前は?」

「え?」

「名前だよ、なーまーえ!」

「あんたに教える義理は無いわよーだ」

「ああ、そうー。じゃーなんて呼ぼうかな。ブス女。カンシャク女。めりこみテーブル。蛇の彼女。ザ・ヒステリー」

「うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「さーあどーする?」


と、勝ち誇ったような目でニヤニヤとあたしの顔を見ている。こっ・・・、この毒舌〜・・・・・・。


「・・・・・・チア、よ。チア=リートってのがあたしの名前」

「ふーん。・・・・・な」

「は? 今、何て言った?」

「いやいやこっちの話」


やっぱりな。って聞こえたのは、気のせいだろーか?
気にしないでおこう。うん。


「でも、半径十メートル以内には近づかないでよ!

「はいはい」

「さてと、まき拾いにいこっと」



あたし、割と体力あるのよね。少し駆け回ってまき探してくるくらい、軽い軽い。
とか思ってたら。
手伝いのつもりか競争のつもりか何か知らないけど、ランダが先回りしてあたしよりも先にまきを見つけていた。
あたしより見つけてる量多いし。
・・・・・・。いーのよ! どーせあいつはここ、地元なんだろうからっ!

にしても、ほんっとこいつ何者かしら。
頼んでもないのに、勝手にあたしの代わりに火を起こして、それでご飯せびらせて、で、結局あたしはパンを一つわけてあげる羽目になったりしたl。


は。


「まさかあたし、一目惚れされた? ぶっ」

「するかい、ブス」


しまった。つい声に出してしまった。
だからって後頭部にまき投げつけんなっての。おー痛い。

ま、旅には、波乱やアクシデントがつきものよね。
その方が、より、『冒険』って感じだし。

くふふ。
『冒険』
ああ、いいヒビキ。かあっこいーいv

波乱。アクシデント。
大地と空、地図、見たことのない街、歩いたことのない道。珍しい食べ物や植物や景色。
それら全部を乗り越えて、世界一の冒険者になるのが、あたしの夢であり、目標!


幼いときに会った、あの女性のようになるんだ。あの人みたいな冒険者に!
世界を見るためなら、何があったって怖くない。切り抜けていける。






ところが、完全に日が沈んで、夜がやってくると、だんだんあたしの気持ちも沈んできた。
だって暗いんだもーーん・・・・・・・・。





山吹色から橙色へ、金色は淡い朱色へ、そして濃い紅へ、やがて藍色へ。
そんな綺麗な空の色を、全部呑み込んで、冷たい風が包む暗闇がやってくる。

旅に出たあたしの前に、最初に立ちはだかるものは何?

どこまでもどこまでも歩いていける。そう信じていたあたしの行く手を阻んだのは、胸をときめかせてくれるような珍しい異国の景色ではなく、波乱やアクシデントなんてかっこいいものでもなかった。





一人で過ごす夜。
たった、それだけ。








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