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がやがや どやどや


うーん。さすがこのお店、お昼前でも人多いなぁ。
ここは、隣村の喫茶店。
村っつっても、あたしの故郷ほど田舎じゃないから、こんなふうに洒落た場所もあったりするんだけどね。

ふぅ。けっこう歩いたんだよ。これでも。
でも、まだまだ近所の散歩ってかんじ〜。
だってまだ『知らない場所』じゃないし。


・・・まぁ、まだ二、三時間しか歩いてきてないから、しょうがないか。




「よっ、チアちゃんいつもと変わった格好してるねぇ、今日は一人かい?」
と、お店のご主人のおじさん。

「うん。遠くにいくの!」
「お使いかい?」
「ううん、あたしね、旅に出たの♪」
「ははっ、気をつけな。そうだ、とれたてのブドウのジュースをしぼってあげようか。今年はいいのが育って・・・・・」
「・・・ううん、コーヒーちょうだい!」


新しい体験はするべきよねっ。
ちょっと大人の味いってみましょうっ♪
ここのは香りがいいのよぅー。
砂糖とミルクは欠かせないけどさぁ。
ま、一人でゆっくり落ち着いて、飲み物を味わう。
十分、新しい体験ー♪
お母さんのを盗み飲みした以外は、喫茶店でコーヒーなんて初めてだし。



一番奥の席に座る。
空いててよかったぁ。ここに来たらこの席に座るって決めてるの!
なぜかというと・・・・・・。
この、壁。
貼られてある、地図。

――初めて見たとき、しばらく、息をするのも忘れそうになった。
大きな大きな大きな、大っっっきな、世界。
ふちが少し破れている広い紙面の中。壁を埋め尽くすように、一面に。
描かれていた、大陸。



あたしたちの村、どこにあるの???
経度って何?? 緯度って何??
船ってどう使うの??? 海ってどんなの???



まだ、今のあたしの半分くらいの背だったから、見上げながら愕然としちゃったわよ。
そのころのあたしの世界なんて、自分の住んでるところしか知らなかったから。



ああ、コーヒーが美味しいなぁ。甘い。ふふ!
・・・・・・砂糖入れすぎ? あたし?
しまった。せっかくだから、ブラックに挑戦するべきだったかな。
更に一段階大人の味、レベルアップ。
まー、いーやぁ。幸せだからいーの! 甘いのがいいの〜。






しかし・・・・・・。



そんなあたしの My Dream わーるど は、三秒後、崩壊する運命にあるのであった。



けたたましい騒音と共に。




  ・・・・・・ドヤドヤドヤドヤ!





何? この音。っていうか声?
とか思ってると。



ズガシャアン!


「ぶっっっっ!?」


あたしは知らなかった。今まで。
この店の出入り口が、正面だけではなく、裏にもあったことを。



そいつらは、まさに、なだれこんできた。
あたしのすぐ隣で、壁と同化していた、ちょー地味な戸を、吹っ飛ばして。



「うぃーーっす、おっちゃん!」
「オレら全員座れる場所、あるある?」
「ひー、駆け回ったから、喉カラカラ!」



 ざわざわ ざわざわ わいわいがやがや



・・・・・・汗、クサ。男クサ。



っつだあああああーっっ!!
気分ブチ壊しーーーっっっ!!!



「なんだぁ、あっちの女、顔面テーブルにめりこんでるぜ」
「世の中広いからなぁ、中にはヘンなことするのが好きなヤツもたまには」


こらそこー! 好き勝手言うんじゃなーい!!!
なんなのよ、このチビッコBOYSは!


そして聞こえてきた、この、ナマイキNO.1なヤツの声。


「あれ? 見ない顔だなぁ、お前。何者?」
「んぁ?!」


革のベストと短パン。どこにでもいそうな普通の格好の男の子。
けど、その土と汗で汚い顔と、ぼさぼさの髪は見るに耐えないっっ!
この集団の中では一番年上みたいだけど、格好から見て、全然子供じゃん。


「なんだよ、ンな怖い顔して」

「ランダーっ、そんなブス女ほっといてこっちこいよーっ」



「ぶっ・・・・・・・・!」(す?)


誰がだぁぁぁーっ! よくも乙女の禁句ををおーーーっっっ!


おおっと、こんなことでいちいちキレてちゃあ、BAD、BAD、大人気ない。
・・・・・・これだからお子様ってキライ。



「ごめんよチアちゃん、騒がしくてな」

店のマスターさんが苦笑する。

「ううん。また来るね」

チャリリンとお金を払ってあたしはドアに手をかけ・・・・・・


 うにょろんっ


・・・・・・へ?

手に、とてつもな〜くヤな感じ・・・・・・。
そうして恐る恐る目をやると。
絡みついた水色の蛇さんが、パチリとあたしにウインクした。


「!!! 〜〜〜〜っ!」


・・・・・・別に断っておくけど、あたし田舎育ちなんだし、普通、こんな爬虫類くらいじゃちっとも動揺しない。
棒で追っ払うくらい、へーき。

ただ。
その・・・・・。
なんつーか。

何事にも、さ。

心の準備ってぇもんがさぁ・・・・・(涙)


なんて心の中で言い訳並べても、もはや無駄。
目を白黒させたあたしを見て、ゲラゲラゲラ大爆笑してるBOYSどもには届かないのであった。


あああっ、もう!!!
さよーなら蛇さんっ。さよーなら少年ども。



まぁ、気ぃ取り直して、再度、旅立ち!


カランカランと、あたしは木のドアのベルを鳴らして出て行った。


気を取り直して。
そう。気を取り直して。


あたしの旅立ちは、今のところ、全て順調。


だった・・・・・・はず。





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