アルティメイト北方区、オーディーン学院。

「レフラは一体どこへ行ったの!!」

イザベラのイライラとした金切り声が、校長室の奥間から聞こえる。
連れ添う星獣が、機嫌の悪そうな主の様子を、迷惑そうに見上げていたりする。

「水晶玉に姿が映らないわ・・・探知できないじゃないの、もう! 
 どうせ、あのエクセル=ハイトが、探知防止のくだらないアイテムでもまたレフラに貸したんでしょうよ・・・・
 ああ全く、レフラもレフラだけど、将来有望なアスガルドの優等生が、こんなくだらないことばっかりしてていいのかしら・・・東方の教育制度はどうなってるの。
 エセセヤ様に直談判にでも行った方がいいかしら。どう思うこと? クーシー」

そんなこと言っても、クーシーはイザベラの愚痴など聞いてやしない。
眠そうな眼で、白い犬の姿のまま床にごろりと伏せっている。
いつもはおっかないほど冷静で落ち着いている彼女が、どうしてレフラのことになると、毎度毎度キリキリと気を揉んでいるのか分からなかった。
どのみち、イザベラの力なら、魔力的にも、権力的にも、レフラがどこで何をしているのか探し出して、強制的に連れ戻して言うことを聞かせるくらい、わけないことなのだ。
それなのに、例えば、レフラが授業をサボっているとか、それで思いのほか成績が悪いとか、あるいは無断で郊外で遊びまわっているとか、そういう、イザベラにとってレフラが「勝手な」ことをしているということが、どうにも癪に障って仕方が無いらしい。
クーシーは、ふさふさした長い毛が絡まらないように気をつけながら、だらりと頭を寝かせてふありとあくびを一つする。本気で、眠そうだ。

誰かが、扉の外に待機する気配。
「どなたかしら、入ってかまいませんわよ」
「――失礼、イザベラ様」
物音も立てずに扉を開いて、滑り込むように中に入り、姿を現したのは、長身の人物。
ただ背が高いだけではない。流水のようにさらさらとした、肩から背に流れる青銀の髪。そして、その体躯もひどく細い。
これで、もう少し肩幅が細ければ、もう少し、その胸の平らさが分かりにくい服であれば、女性と見間違えても無理の無い外見をしている。
「ああ、ゼミナリー、そうね、そろそろ来ると思っていたわ」
「ええ、来るのが少し早かったでしょうか」
「いいえ結構よ、話はさっさと手早く済ませてしまったほうがお互いよろしいでしょう。おかけになって」
「立ち話で。『さっさと手早く』済ませてしまいたいのでしょう?」
落ち着いたテノールトーンの声がふわりと微笑する。その長身の細い体躯と合わせて、まるでフルートの音色を聞いているような気分にさせる声をしている。
「あらそう、まぁいいわ、私の言い方が悪かったわね、気になさらずおかけになって。私は座って話がしたい気分よ」
「これはこれは。では遠慮なく」

応接テーブルに向き合って座る。

「どうです、イザベラ様、『パンドラ』の調べはつきましたか」
「まだよ。やっぱり現物を見てみないとどうしようもないみたいね」
「何者かに奪われたと聞きましたが」
「ええ、本当に、どうしようもないことで」
「しかし、預けていたあれが『パンドラ』だという確証はなかったのでしょう」

向かって話をしている相手が、薄いヴェールを被っていてもうんざりとした表情をしているのが、会話の中で入るため息交じりの息からわかる。
よく磨いた青水晶の欠片のような大きな眼が、興味深深で、イザベラの様子を見つめている。

「そうよ、だから、ユグドラシルに協力してもらって、調べてもらう予定だったのよ」
「やっぱり面倒なことになりそうですねぇ」
「呑気に言わないでくださいな。そんなこと、初めからわかっていたことよ。ただ、向こうの行動がこちらより早かったということでしょうね」

ふぅ。
今後こそわかりやすく、イザベラからため息がこぼれる。
これでも大分疲れているらしい。
そんな彼女の様子を気遣いながら、そろそろと、次の会話を繋げる。
言いにくい本題は、話の途中でこそりと切り出すものだ。

「ところで、『星』の様子はいかがです・・・?」

放ったナイフがそのまま跳ね返ってくるかのような、鋭いイザベラの視線。

「僕としては、あなたのご指示がないと今のところ動けませんから。どのような兆しがあるかだけでも伝えてくださいな」
「私に聞くより先に、あなたの方はどうなの、ゼミナリー」
「星の様子を頼りに、ブライト・ノースを始めとして、魔導師を調べてみていますが・・・これでもアルティメイトはなかなか広い。もっと手がかりがないと」
「そうね・・・魔導師を探すよりも先に、対策を練らないとね・・・」
「と、言いますと」
「『鍵』が現れる兆しがあるわ。だから、賢者も目覚める。遠からずね。そうね・・・ユグドラシルがいいわ、どなたか優秀な方に、『星』の調査に協力してもらいたいわね」
「イザベラ様、お伺いしたい、もし賢者が現れたら、アルティメイトは、どうなるのでしょう」
「さぁねぇ。アルティメイトを、原始の闇より創造したとされる賢者・・・現状のままではいられないでしょうねぇ」

どこか嘲るような、投げやりともとれるイザベラの言葉。

「なんだか気が重いわね。やっぱりお茶をいれましょう」









☆                    ☆                  ☆










オーディーン学院・北塔の最上階。
校長室、もとい、イザベラの私室。

「・・・それで、魔法が使えなくてあなたは、抵抗することも一矢報いることもできずにただただ床に転がされていたと」

イザベラの傍らでは、子犬姿のクーシーが幸せそうに何か美味しそうなものを食べている。
純白の毛並みが幸せそうにふわふわ揺れた。

「いやーーーははは、そうともゆーかなーーー・・・」
「そうと言っても言わなくてもつまりはそういうことなのでしょう。全く情けない嘆かわしい」

うかつだった。
イザベラにはばれないように、こっそりオーディーンを抜け出して、ユグドラーシルに渡る予定だったのに。
シャープでの事件が、あること無いこと全て事細かにイザベラの耳まで届いているなんて。

さすが大総督。アルティメイト内で起こることについては、公式、非公式に関わらず情報は行き届いてるものらしい。

「で、あなたは反省もせず、また凝りもしないで魔法の修行をサボって脱走するつもりだったと」

魔法の修行をサボりたいんだというよりも、あの牢獄みたいな場所に監禁されるのが死ぬほど嫌なんだ。
と、反論したいところだが、実際に口にしようものなら今度は奴隷の収容所のような場所にでも押し込められるかもしれないという恐怖があるので黙っておく。



「あなたはオーディーン後継ぎの自覚はあるの」
「その辺は、まぁほどほどに・・・」
「要するに継ぎたくないわけね」
「うん」


即答。
しばしの沈黙。眼と眼の会話。


「だって何だかんだいいつつ、母さんが押し付けてるだけだしぃー」
「だらしなく語尾を伸ばすような喋り方はよしなさい、東の総督を思い出して不愉快だわ・・・いえ、今の一言は関係なかったわね、ええそれにしても」
「それにしても、何」
「アルティメイト一の魔導師になりたいとそう言って私についてきたあなたが、どうしてそんなにも勉学にやる気を見せないの」
「う。またそんな昔のことを・・・。だから実践と勉強はなんかこう、違うってゆーか」
「じゃあ、百歩譲って、勉強にだらしのないことに関しては置いておくとしましょう。オーディーンを継ぎたくないという弁明を聞きましょうか」
「それをあたしに言わせるってか」


がくりと肩を落とし、手で髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
顔をうなだれると、両の頬にブロンドの髪がまとわりついた。彷徨う視線を隠してくれる。しかしイザベラにはそんなものは通用しない。銀の瞳はまっすぐに、レフラを捕らえて離してくれない。


「・・・・・・あたしは、母さんのための便利な後継者役になるために、ここについてきたわけじゃない・・・・・・」
「わたくしは、そのつもりだったとしても」
「うん。当然じゃないか。この学校、嫌いじゃあ、ない、よ。でも・・・なんていうか、あたし、今のアルティメイトっていう世界の仕組みが嫌いだ。魔導師とか階級とか星とか国とか、何かいろんなものが、この世界に存在する全部を縛り付けてる感じがする。あたしは、その中で生きたくはない・・・もっと、普通に、自分のやり方でやっていきた」
「贅沢なこと言うんじゃありません」


精一杯、自分の言葉で、自分の中の考えを述べようとしたレフラの言葉は、有無を言わせないイザベラの叱咤に切り捨てられる。
こぉんの、クソババァ・・・・。
内心で毒づくものの、声に出して言う勇気は無い。


「不満そうね、レフラ。ならばなぜ、あなたの言う『自分のやり方』があなたにはできないか、教えてあげましょうか。
 簡単です。あなたにはその力が無いからよ。」
 今の世界の秩序とルールが気に食わない。ええ、ええ、あなたの性格ではそうも思うことでしょう。では、あなたにそれを変える力があるのかしら?答えは否。
 アルティメイトの中枢は、わたくしを含めて、準一等以上の星級の魔導師が取り仕切っています。あなたに、その魔導師達と対等に肩を並べ、意見し、秩序をあなたの考えるように変えていく力があるのかしら?
 そんな力も無いのに、この世界のルールに背こうと思うあなたの考えが、ひどく浅はかで幼稚で身勝手だと言うことです」第二に、あなたがオーディーンを継ぎたくないということ、あなたの言い分も仕方ないでしょう。わたくしとしてはひどく残念なことだけれども。しかし、今のところわたくしは、あなた以外には時代の校長を考えてはおりません。あなたにはその資質があるからです。どうしても嫌だと言うのなら・・・・・・わたくしを倒していきなさい」
「倒していきなさいって、んな、無茶な」
「無茶でしょう。そう思うなら刃向かっても無駄です、レフラ。仮にあなたが後継ぎを嫌がって逃げ出したとしても、必ずわたくしが見つけて引きずって連れ帰りますからね。後を継ぐのが嫌だと言うのなら、水晶玉で探知できない程度の小細工に頼らずとも、わたくしの手から逃れる程度の技量を身につけてからにしなさいね。まぁそれも無理な話でしょうけど」


ぐぅの音もでない。
何だかんだ言われても、結局レフラはイザベラには逆らえない。最強。


「はぁぁぁ・・・・・・・」
「ため息をつくと幸福が逃げると言いますよレフラ」
「・・・深呼吸だもん」
「まぁ冗談はさておき」
「なんですかまたお仕置きですかい」


勘弁してくれよ、と、力の抜けた目で訴える。


「そうね、いつものように課題を山ほど押し付けてもいいのだけれど」
「うぇ・・・・・・」
「しかし、どうもそれはあなたには効果が無いようなので」
「・・・おぉ?」


風向きがなにやらいつもと違う。それがそれが吉と出るか凶と出るか・・・ドキドキとイザベラの顔色を伺い、様子を見ながら、その先の言葉を待つ。
それは、レフラにとっては予想外の、イザベラの提案だった。


「あなた、ちょっとばかり、オーディーンの外の学院へ、留学しておいでなさい。ウィズドム・コアの、ユグドラーシルへ」








☆                    ☆                  ☆







開放感のある広々とした談話室 ( カフェ ) 。学生が主に、授業の無い時間や休憩時間などにのんびりと過ごす自由な空間であるフリールームだ。
ここは校外の者でも比較的出入りしやすい。
エクセルもすっかり馴染んでいる。ここの生徒よりもくつろいでいると言っていい。

「ふぅん、じゃあレフラ、留学するんだ。よかったじゃない」

よくねぇよ。
と、言いたいところだが、結果的にはそういうことになってしまっているので、なんとも言えず複雑な面持ちで聞き流す。
表面だけで考えれば、「よかった」ということで異議は無いのだ。これでユグドラーシルに正々堂々と入り込むことができるのだから。美弥乎姫との契約をもちろん忘れたわけではない。『菫青のきみ』、もとい、ルルーナ・アイオライトと接触し、彼女が美弥乎姫から借り受けたという『螺旋の指輪』を返してもらうという、契約。
先日、偶然ルルーナと遭遇した時、彼女は、『指輪』のことをこちらが口にした途端、明らかに顔色を変えた。何か相当な事情がありそうだ。それ以上指輪に関して問い詰めても、頑なに口を閉ざすものだから、その場は彼女を引き止めることができなかった。
いらいら、いらいらいら。
思い出すと、腹が立つ。そのときのことを思い出すと、「シャープ」でごろつきに一泡吹かされた腹立たしい記憶ももれなくついてくるということも一因だが、ルルーナの煮え切らない対応を思い出すと、じれったい苛立ちが胸にふつふつと煮えくり返る。

「ああああっ、やっぱり、シメあげてでも問い詰めときゃよかったんだよっ!」

だん、とこぶしでクリスタルのテーブルを打つ。
手前に置いてある透き通った緑色のソーダが、グラスの中で波打った。

「今言っても遅いってレフラ」
「だって、絶対その方が楽だったって!あいつ、借りてるもん借りっぱなしなわけでしょ?それってドロボーだろ。あいつが悪いじゃん」
「あの時はああいう事件の後で何かとごたごたしてたし、無理にことを進めても逆効果だったと思うよ。それに、女の子にあんまりキツイことしたり言ったりするのは好きじゃないし」
「へーへーへーあんたがそういうこというのもあたしはちょっと気にくわないんだよっての」
「うだぁぁぁっ、いや、ごめん、レフラ落ち着いて、冷静にれーせーに話し合おうぅぅ。ほら、レフラもアイス食べるかい?」
「食べるっ、よこせ」

エクセルはまだ一口も食べていなかったビーンズアイスを、まるごとレフラにとられるはめになった。人気デザートなのでもう残っていないだろう。
きんきんに冷えたアイスを、レフラは小さなスプーンでつついて口に放り込む。
とりあえず、何か五感を刺激してくれるものがあれば、少しはいらいらが緩和されるものらしい。
気の立った女性には甘いものをあげるといい、という世間の法則に、一応はレフラも乗っかっているというわけだ。が、そんなことを頭の中で考えていることがばれるとまたレフラのご機嫌が曲がってしまいそうなので、エクセルはだまってレフラがしゃりしゃりとアイスを崩していくのを見守っていた。
さて、話を元に戻そう。

「まぁ、もともとユグドラーシルに忍び込むつもりだったんだから、そのつもりで動けばいいって。そう思うと、レフラ、君がそうして正式にあの難しい学校に入って行けるって、すごく手間が省けたと思わないか」
「えーでも、他の学校なんて今まで行ったことないし、面倒くさいな・・・」
「留学のついでだと思いなよ。だいたいレフラ、ユグドラーシルがどんなところだか、どの程度知ってるのさ」
「ものすごくてでもって謎ばっかな、変なでっかい学校」
「・・・・・・表現力はともかくとして、正解だと言っておいてあげるよ」

あまりにも率直というか抽象的なレフラの言葉に、さりげなくこめかみを引きつらせつつエクセルはうなずいていた。
美弥乎姫からこの、ユグドラーシルという名前を聞かされたときからある程度の警戒と覚悟は用意していた。
ここの関係者が、今回のターゲットだというのなら、最大の難点は「どうやって接触するか」ということだろう。
ユグドラーシルは、内部の情報を徹底して外に漏らさないことで有名だ。生徒の出入りはもちろん、外部との接触を一切絶っている。
ルルーナと連絡が取れないという美弥乎姫の話も、つまりはそういうことなのだろうと思っていた。
しかし、仮にもレフラとエクセルは「よろず屋」を自称している。どうにかこうにかして、ユグドラーシルに忍び込んで、美弥乎姫の言う人物のことを探るつては用意するつもりでいた。

「考えてごらんよ、レフラ。その『生徒の出入りができず、外部との接触を一切絶っている』ことで有名な、ユグドラーシルの人間が・・・・・・どうして、『シャープ』なんかにいたんだい?」

エクセルは胸ポケットから、愛用の小型コンピュータを取り出す。
そして、開いて導き出したのは、探し当てた「ルルーナ・アイオライト」の個人データだ。

「ルルーナ・アイオライト。年齢は13歳。在学年数・8年目。そして・・・現在、博士課程を修了している。つまり、あの子、生徒じゃないんだ・・・ユグドラーシルの『教授』、教員の一人だってことだよ」
「じ・・・13で、教授・・・・っ???」

流石のレフラもぽかんとした。

「そう。だから、教員のみの特権、外部フリーパスが通用するってわけ」
「ちょ、ちょっと待てよ・・・教授・・・教授ってことは・・・・・・あれだよな」
「そう。それ」
「どれ」
「いやいや・・・つまり、全学年全学部全科目修めて、自分で研究の分野を広げられる領域ってことだよ」

むむむむ、と、アイスのスプーンにかじりつく。
それってどんだけ学業好きなんだっての。

「教授なんて・・・物好きだねぇ。世界にゃ勉強なんかより千倍楽しいことがいくらでもごろごろしてるのに」
「たとえば学校サボってハンバーガー食べに行ったりとか?」
「そうそう。よろずやしながら、くだらないごたごたにまきこまれたりとかね」

レフラの瞳がいたずら好きの子猫のようにきらりと輝く。

「ありがとレフラv」
「そんで、気前のいい相方が、ビーンズアイスをおごってくれたりとか」
「・・・もう一杯食べる?」
「ミルクかけでよろしく」

ため息一つ、エクセルから。しかしさほど嫌そうにも見えないけれども。

「あーもー・・・話の腰が折れた。こほん。でもさぁレフラ、なんか・・・あのルルーナって子、なんだか意味深だと思わない?」

ぴっとレフラの前に、エクセルの人差し指が差し出される。

「そりゃあね」
「『パンドラ』のこともあるし、ともかく彼女と接触してみなきゃね」
「へーへー、頑張ってみますよっと」
「だから、僕も行くよ」
「あーそう」
「・・・・そう・・・って、けっこう準備大変なんだからね?レフラ、わかってる??」
「まー、あんたのすることだし、あたしはどうでもいいけど」

関心の無いレフラは理解してくれていないが、実際、大変なはずである。
さっきも言ったように、生徒は『出入り厳禁』の閉ざされた学校。
レフラが勧められたように、他の学校からの留学生というのも異例なことだ。

「僕は僕なりに巧く準備するつもりだからさ、ご心配なく」
「別に心配してないけど」
「・・・いやさぁ、ちょっとはものの言い方ってモンが・・・」

何を使って手を回す気か知らないが、そのいつもの余裕綽々な笑顔を見る限り、何も問題なさそうなのは一目瞭然。
わざわざ気をかけても無駄というものだ。

「まぁあんたのことよりも、エクセル、今度は武器何持って行こうかなぁ? さすがに銃(ガン)は持てないし」

レフラはアイスのスプーンをくわえたまま、テーブルにひじをつきトントンと指を鳴らす。
一応彼女なりに、作戦というか戦略というか、そういうことを考えてはくれているようだ。
その中には、真面目に呪文を覚えて魔法を習得する、という選択肢は無いらしい。それが一番効率的であることに気づいてくれれば、彼女自身のスキルの上達にもなるし、最良なのだが。

「あ〜、校則はどうなんだろう・・・。魔術のためのものならそこそこ許容されてそうだけど・・・僕らの場合、こういうのが目立つとまずいな」
「おっけー。じゃあ『ネイル』にでも仕込んでおくとするよ」
「ああそれがいいね。持ち運び要らないしいつでも使えるしね」
「手入れしておかないとな」
「発つの、いつだっけ?」
「明後日」
「急だねぇ。まぁ、僕らとしては都合がいいけど」
「今日と明日はしばらく遊んでおこ」
「忙しくなりそうだしね」

はぁぁ。

『明後日』という言葉を発した後、レフラはやや憂鬱な面持ちになって肩を落とした。
・・・こうして、エクセルといるときは、仕事(よろず屋の依頼)の話をしていられるけど、表向きも含めて、実質は「留学」ということになっている。
向こうにいって押し付けられる日々が、面白いはずが無い。

「なんだって勉強しなきゃいけないんだろうな・・・・・・」

たまにこんなふうに、すごく気分が重く感じる。
『学校』というくくりが、とにかく嫌いで仕方がない。
ずっとこんなふうに、空の下でのんびり好きなことしていられたらいいのに。














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