* 11 *
家を飛び出してきてから、今日でちょうど、丸二年。
あたしは、再び旅に出ることにした!
鏡の前で、長く伸ばした髪をきつく結ぶ。背中で揺れる、ポニーテール。
よっしゃ! がんばりました! これでちょっとはポニーテールらしいポニーテールになってる!
お父さんが用意してくれた、真新しいブーツ。
これ、よく足になじむんだよー。すっごく歩きやすいの。羽が生えたみたい。
軽々とはためくマント。これは前と同じもの。
少しは裾の長さを整えたけどねっ。もうずるずる引きずらないもんっ。背が伸びたから、前と同じにはならないよっ。
あたし、どれだけ変われたのかな?十二歳だったあの日から。
今のあたしは、大人なんだろうか。子供なんだろうか。
さぁ、それを確かめに行こう!
「チア」
扉に向かったあたしを、お父さんが呼び止める。
「お守りだよ」
何か小さなものを、あたしの手のひらに乗せた。
ペンダントだ・・・・・・・・・。
お父さんが、作ってくれたんだ。
木彫りの鹿。
気高く雄々しい鹿と、小さくてまだ角の無い鹿。
うわぁ、親子の鹿なんだねー。
「森の神様が、いつでもチアを守ってくれますように」
「ありがとう! お父さん!」
細い銀のチェーンを通して、首にかける。
自然と顔がほころんで笑顔になった。
ふと、思い出す。
「ね、お父さん。旅に出たら、また、ランダとどこかで会えるかなぁ・・・・・・・・・」
あれから。
ランダは、時々ここに遊びに来ては、あたしをからかったり、お父さんとおしゃべりしたり、コーヒー飲んだりしていた。
あたしも連れ出されて、一緒に出かけたり、いろいろしてたんだけど、ある日を境にぱったりと姿を見せなくなっていた。
パル村に何度か足を運んで知ったんだけど、どこか違う場所に移り住んで行ったらしい。
それっきり、会うことはなかった。
・・・・・・今のあたしと、どっちが背が高くなったか、並んで立ってみたかったのにな。
お父さんが、ぽんぽんとあたしの頭を撫でる。
「チアはこれから、世界中を歩いて回るんだろう? だったらきっと、どこかで会うさ」
なーんか、何も考えてなさそうな話し方だけど・・・・・・。ま、それがお父さんのいいところだよね。
そうだよね。
どこかで、ね。
「あ。チア、何か忘れてるよ、ここに」
う・・・・・・・・・・・・っ!!!
それは・・・・・・・・・・・・・・っ!!!
あたしが、最初の旅立ちの時に、『冒険記』とかなんとか名づけて持ってきたノート!!!
「何だいこのノート? 日記?」
「ぎゃーーーっ! だめだめだめっ! 見ないでぇぇ」
ふー、取り返した。
うっわ、はずかしー。
だって、二ページしか書いてないもん。
しかも、最初の一日目に書いただけ・・・・・・。
うー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
捨てようかどうしようか迷ったけれど。
とりあえず、荷物の一番奥にしまいこんだ。
もう、調子に乗った子供っぽいポエムなんか書かないけど・・・・・・・、本当に忘れたくないことだけ、書きとめていくことにしよう。
これから歩く日々の中で。
冒険記、なんてかっこいいものじゃなくていいか。
じゃあね、道中記、とか? うん。そんな適当な感じで。
さあ。
歩き出してみようか♪
空はどこまでも蒼い。
森を抜けたら、道を走ろう。
あの日歩けなかった続きを進もう。
昔越えられなかったものを、今度こそ、越えていこう。
追いかけてみせるから。
たどりついてみせるから。
この先に待つ『世界』へ。
これから出会う全てのものへ。
いつか届く、夢へ。
(TO BE CONTINUED)
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