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夜。
ランプの明かりが、寝転がったベットの上に落ちている。
あたしは、その上で一人、わくわくうきうきとしている。



「『・・・・・・というわけで、まもなく12歳の誕生日を迎える、村娘、チアは明日の冒険を決意するのであった』・・・っと。
 くぅぅっ、あたしってば、もしかして文才ありー?」



きぃ・・・・・・

げ、ドア開いた。
木目模様の間から、小さな顔がのぞく。
妹の、タミカ。


「チア、何やってんのー」
「別にぃぃぃぃ!」


っつああああー! まだ起きとったんかい、こいつわー! 子供が夜更かしするな!(って、あたしもなんだけどさあっ!)

素早くノートは枕の下へ。
うう、ベットの藁の匂いついちゃう〜。


「チアさぁ、本気で旅に出る気ぃ?」
「モチロン! 世界があたしを呼んでるわよーっ!」


そう。これはあたしの夢。
こんなとこ、もう沢山。
井の中の蛙なのはイヤ。


あたしは、鳥になる! どこまでも行くの!


「・・・・・・妄想じゃん」
「うるさぁいっ! 夢見る乙女の気持ちはあんたにはまだ理解不能なのよっっっっ!」


あたしは、タミカを追っ払って、ノートを抱きしめながら、朝を待っていた。
一ページ目が、今、綴られたばがりの真新しいノート。ううん。あたしの日記帳。あたしの宝物になる予定の、『冒険記』。





これは、あたしの夢。







あたしの村は、田舎。いや、「村」と呼ぶのすらどうかと思うほど、何もない土地。

お父さんはどこかの町に出稼ぎに行ってて。
お母さんは、糸を紡いで服を作って料理も作って家事もして。
あたしたち子供は、作業分担で、野菜育てて、家畜育てて、森で木を切って。

家の前の小さな畑(ま、四人分生活できるくらい)と、裏の鶏小屋を除くと、周りにはひたすら、広〜〜大〜〜な、森。

森。
森。
森!!!


全部、自給自足。
平和な生活。
穏やかな生活。
平凡な生活。

でも・・・・・・。

変化の無い、それだけの生活・・・・・・。


あたしには、物足りない。




あたしは、家の物置を荒らした。
そして引っ張り出した。

古いけど、丈夫で大きなマント。
滅多に使わない、遠出用の革のブーツ。
あたしのナイフ。
それから、一番動きやすい服――シンプルなズボンとシャツ。

三つ編みをほどいてポニーテールにした。
大きな鏡に自分を映す。

そこにいたのは、あたしじゃなくて、小さな冒険者だった。
胸が震えた。熱くなった。
なりたい自分を見つけたのだ。



だからあたしは、今、もどかしく朝を待っている。
明日になるのを待っている。
あたしの足元、ベットの下。
ずっしりと膨らんでいる、あたしのリュックと一緒に。



なりたかった自分に、もうすぐ会える。








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