ぐつぐつ ぐつぐつ
とろりとした茶褐色は、なめらかな艶を帯びる。
やわらかく、やわらかく、大鍋の中でかきまぜる。

まるで、「幸せ」という言葉を空気の中に溶かしたような心地。

ぐつぐつ ぐつぐつ 
火の精、もう少し息を弱めて。
決して焦がさないように。
ゆっくり、ゆっくり、練り上げる。
とろとろ、くるくる、かきまぜる。
絹のようになめらかになるの。

黄金よりも美しい、うっとりするような、輝くセピア・ブラウン。
鍋に刺した杖を少しだけ持ち上げると、とろとろと、リボンを落とすように流れ落ちる。
温かく柔らかな、魔法の液体。
とてもとても、甘い香り・・・・・・。

うん。できあがり。

青銅の鍋の底を焦がしていた火を止める。
そして、風の魔法を全体にかける。
これは保温用。下手に冷やすと固まってしまうし、油分が白く浮き出て分離してしまう。
とてもデリケートだから、効力を失わないようにね。
扱いには気をつけないといけない。

ああ、楽しいなぁ。
どうしてこの香りをかぐと、いつも、こんなに幸せな気持ちになるんだろう。



こんこん。
ドアをノックする音がする。

「ルルーナ、お客さんが来てるよー?」

研修生の、ミスティカの声。

「はぁい」

誰だろう。
・・・きっと、ランゲルだ!

研修室を出て、階段を駆け下り、応接室へと向かう。
応接室のドアを開けると、そこには。

「―― よう、ルルーナ」

よく目立つ金髪の髪と、意地悪そうなセピア色の瞳が・・・この眼に飛び込んできた。
あたしは、その場で硬直した。

「やぁっ、元気そうじゃーん♪」
「れっ、れっ、れっ・・・れふらさん、どうしてここに・・・ユグドラーシルは、原則的に、関係者以外立ち入り禁止・・・」
「おいおい、あたしのカッコ、よく見ろって」

と、言われたので、見てみる。
それはどう見ても、頭のてっぺんからつまさきまで・・・・・・

・・・・・ユグドラーシル生徒の、正式な制服に、身を包んでいた。

「いいっ?!」
「ユグドラーシルに留学することになったの。ブライト・ノースのオーディーン学院から、正式に手配してやってきたのよ。文句ある?」
「ああ、ああ・・・そこまでして・・・・・・」

頭痛を覚えて、体の力が抜けるのを感じた。
その場にかがみこんでしまいそうな気分になる。

「あたしが来た以上、もう逃げられないわよ。観念しな」
「そのようですね・・・・・・」

ぐらぐら。
心の中で、何かが揺らぐ。

螺旋の指輪を、渡してしまうべきか、否か。

ぱきん・・・。
私の中で、何かが急速に冷えていく。
それは、心の中の情熱。
あるいは、行き詰まった研究への、執着と探究心。

・・・だから、恒答えることができたのは、至極、自然なことだった。

「わかりました・・・。あの指輪は、私にはもう必要ありません。お返ししましょう」
「お? 早いじゃん。そうこなくっちゃ」

ああ・・・・・・。
心が冷えると同時に、胸に浮かび上がるのは、罪悪感だ。
善意をもって、大切な宝物を貸してくれた友人に・・・私はひどく迷惑をかけてしまった。

「いろいろお話ししなくてはならないこともありますし・・・それに、お渡しするためにご用意しなくてはならないものもございます。」
 お茶でもご用意いたしますので、座って待っててくださいな」


未練が無いとは言い切れないけど、もう私には必要ない。
左手の指輪にちらりと視線を投げる。


だって私には。
もっと大切なものがあるのだから。























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