エメラルド色の中庭に、水晶の粒がこぼれるような透き通った陽光が差し込んでいた。
大理石の敷き詰められた石畳。ペンタクルの描かれた庭園。

その中心で、一組の少年と少女がチェスを楽しんでいた。

少年は、さっきからずっと片手で顎杖をつき、眉間に皺をよせて、黒と白のチェス駒を睨みつけている。
その正面では、黒髪を緩く結い上げた、薔薇色の頬をした少女が、にこにこと穏やかな微笑を浮かべて眺めていた。

「そんなに真剣に考えなくてもいいのに」
「黙ってろ。俺は一回も負けたことが無い」
「はいはい。待っててあげるから」

刃のような色の銀髪と、高のような鋭い眼。少年は、法衣に似た裾の長いローブに身を包んでいる。
この着衣は、生徒の身なりではない。
『賢者』の位にあるものの証だった。

少女は、首回りと袖口に刺繍の縫い取りがある、すみれ色のローブを身に着けている。
修学中の証である、銅色のメダルがその胸元の真ん中で、陽の光を跳ね返して金色に輝いていた。

「・・・わかった、こう動かせばいい」

カタン、と、細い指の手が黒い駒を動かす。

「やっと『見え』たのかしら?」

くすくすと微笑がこぼれて、爪の綺麗な手が白い駒を操る。

「もうすぐ昼休み終わっちゃうわよ?」
「そしたら明日続きをやればいい」

銀髪の少年はぶっきらぼうに返答した。

「ねぇフィーモ、”賢者”を選ぶ試験は今度はいつなのかしら」
「もうじきだ」
「あなたならきっと大丈夫よ、でも、他にいい人が現れるといいわね」

チェスの駒の動きが止まる。

「あたし、そろそろ戻らなきゃ。続きはまた明日にしましょう」

すみれ色のローブがひらりとなびく。
軽い会釈と微笑が、まだチェス盤を睨みつけている彼に、短い別れを告げる。

銀髪の下から覗く、ざくろ色の眼が、中庭を後にする後姿を見送っていた。



ようやく黒い駒が優勢に立ったチェス盤の模様。
勝負が再開されることはなかった。


セスリヤは、100年の眠りに落とされたのだ。
















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