「五つの色」



紅蓮の炎が闇を紅く紅く照らしていた。


「ごめんね・・・君を助けてあげられないよ・・・・・・」


白い水干を身に着けた少年が、その明かりの中に横たわる小さな生き物の毛並みをそっと撫でた。


生き物。
と呼んでいいのだろうか。
少女。
と呼ぶほうが近いだろうか。


体長はおよそ人間の五歳前後の子供程。
手足はとても細く、枝のよう。だけど血の通った人間の肌と同じ温かい色をしている。
異様なのはその体毛。髪ともたてがみとも見分けがつかない。
小さな体にかかる、長く長く垂れた毛並みは、真冬に野に現れる雪兎のように、眩しいほどに真白い、白銀の色をしていた。
顔のふちから頭部を覆い、うなじ、首筋、そして背と肩、胸元にいたるまで、体を覆うようにして美しい白色が包んでいる。
その上から来ている、与えられた薄い羅の衣は、汗でひどく濡れていた。


「ごめんね・・・白虎・・・・・・・」


体は子供のように小さいが、その体つきと表情は、妙齢の女性のようにどこか大人びていて、落ち着いていた。
ぐったりと冷たい板張りの床に、手足を投げ出して横たわっている。
自分に触れる温かな少年の手を、蒼い満月のような彼女の瞳がじっと見つめていた。


少年は、自分の過ちを悔いていた。
自分の未熟さが、彼女のような「不完全な生き物」をこの世に呼び出し、そして病ませてしまった。


どれだけ祈ろうとも、呪(まじな)いを試みようとも、彼女を助けることはもはやできそうになかった。



「晴明様・・・どうしてもこの子は、殺さなくてはなりませぬか」


床には着々と、白い五芒星の陣が描かれている。


「ならぬよ。さあ、五枚の札を並べてくれ」


藁の形代の馬。
五色の札。
東、西、中、南、北。蒼、白、黄、紅、黒。

清めなくてはならないのは、白。


「あきらめてくれ、その式神はもう病んでしまっている。
 人は自然の法則から抜け出ることはできぬ。
 崩れてしまう前に、正さなくてはならぬ」


五匹の式神。
五行と、四神。

一つでも欠けてしまっては、都の護りは完成しない。
病んでしまった式神を葬り、色をそろえなくてはならない。


 ―― 大丈夫です。 どうか私を、清めてください・・・・・・  ――


ぐったりと横たわる、未熟な白虎は、不肖の陰陽師の子に囁く。


天には定められた二十八宿が瞬いて見下ろしている。
避けられぬ別れを急かしている。


小さな白い星が暗黒の彼方に、静かに流れて消えていった。


人知れず降る、涙の雫も、夜の果てに落ちていった。










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(2008/9/29)
勉強不足でした・・・撃沈。orz
お題消化なのに、なんだか某陰陽師話のパクリみたいだ。(すみません)



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